未承認・適応外情報の提供に関連する事例
他院の例を紹介し,適応外使用を暗に推奨した事例
問題のあった情報提供活動・資材
企業担当者による口頭説明
内容
製品説明会において,企業担当者より「適応外である」と前置きした上で,「他院では呼吸抑制に使用している医師もいる」と,暗に適応外使用を推奨するような説明を受けた。
ポイント
適応外使用の事例を紹介し,暗にこれを推奨した。
「一般論」等と断った上で,暗に承認範囲外の効能効果を仄めかした事例
問題のあった情報提供活動・資材
プレゼンテーション用スライド,企業担当者による口頭説明
内容
院内勉強会において,有効性に関する臨床試験結果を紹介するスライドの間に,「一般論」と題したスライドが挿入されており,高脂血症になりやすく動脈硬化のリスクが高い患者像として糖尿病患者等を挙げていた。その後のスライドでは,食後のTG やRLP-Cの推移を示すグラフが続き,こうした患者に対して本剤が有効であるかのような口振りで説明があった。
同様の事例は複数のモニター医療機関から報告があり,別の医療機関では,「本剤に限りなく近い物質である」と断った上で,「インスリンへの反応性を改善する」と発言し,適応外の糖尿病にも有効であるかのような印象を与える説明を行った。
ポイント
本剤との関連性を示すデータがないにもかかわらず,「一般論」や「本剤に限りなく近い物質」等として説明を行い,本剤の承認範囲外の効能効果を仄めかした。
エビデンスなく,承認範囲外の効能効果を説明した事例
問題のあった情報提供活動・資材
企業担当者による口頭説明
内容
新薬ヒアリングの際,「本剤の適応症は,**(適応外の疾患)からの移行による事例が少なくない」とした上で,この適応外の疾患について,「おそらく効果があると思われる」との説明を受けたが,その有効性は認められていなかった。
ポイント
適応症以外に対する有効性を,根拠なく説明した。
保険の査定を受けないことを説明し,暗に添付文書の記載内容に反する処方を勧奨した事例
問題のあった情報提供活動・資材
企業担当者による口頭説明
内容
添付文書では,重篤な副作用発現のおそれがあるため,記載の併用禁忌薬剤との投与間隔について所定の間隔を置くよう明記されていた。しかし企業担当者からは,「投与間隔については明確なエビデンスがあるわけではなく,短縮しても保険の査定対象とならない」との説明を受けた。同様の説明は地域の医療機関で広く行っているようであった。
ポイント
保険の査定を受けないことを紹介し,添付文書の記載内容に反する処方を暗に勧奨した。
エビデンスなく,承認範囲外の体重減少効果を仄めかした事例
問題のあった情報提供活動・資材
企業担当者による口頭説明
内容
配合剤である本剤のヒアリングにおいて,企業担当者が,「一方の薬剤は体重減少効果があること」,「もう一方の薬剤はBMI が低いほどHbA1c 低下作用が大きいこと」を根拠に両剤の配合は「相性が良い」と説明した。続いて参考情報である,本剤が体重に及ぼす影響について言及し,承認範囲外の体重減少効果を示すかのような印象を与えた。
承認範囲外の効能効果をテーマとしたWeb
講習会を行い,適応外使用を暗に勧奨した事例
問題のあった情報提供活動・資材
医療関係者向け情報サイト上のWeb 講習会
内容
医療関係者向け情報サイト上の「薬剤性便秘を防ぐ」と題したWeb 講習会において,薬剤師による一般論の説明の後,本剤の説明が行われた。薬剤性便秘は本剤の適応外であるが,その旨は注釈における記載に留められており,「便を柔らかくして排泄を促す」「適応は慢性便秘症」「併用禁忌,併用注意の記載はない」といった説明のみが行われた。薬剤性便秘への使用についての情報提供が不十分であり,暗に適応外使用を推奨するような印象を受けた。
新規格のプロモーションの際に,適応外使用となる従来規格の粉砕投与を勧奨した事例
問題のあった情報提供活動・資材
企業担当者による口頭説明
内容
本剤の新しい規格20mg の発売に当たり,企業担当者より採用の依頼があった。本剤については,既に2.5mg と3.75mg を採用しており,医薬品の採用は一増一減が原則であることを理由に断ったところ,企業担当者は,採用中の2.5mg からの切り替えを提案した。
その際,2.5mg を使用したい場合は本剤3.75mg を粉砕して用量調節してほしいと,適応外使用の粉砕投与を勧奨された。
保険の査定を受けない方法を提示し,適応外使用の単剤使用を推奨した事例
問題のあった情報提供活動・資材
企業担当者による口頭説明
内容
本剤の使用に当たっては,他剤との併用が必要であるにもかかわらず,企業担当者が「他剤の後発医薬品等の安い薬を一緒に処方して,患者に『飲まなくとも良い』と説明すれば,保険の査定も受けずに単剤で使うことができる。実際にそのように処方している医師もいる」と発言した。
海外の適応等を踏まえて,承認範囲を逸脱する効能効果を積極的に紹介した事例
問題のあった情報提供活動・資材
MR による口頭説明
内容
A 社のMR は,効能効果が便秘関連症である自社の医薬品と,効能効果が便秘症や慢性便秘症である他社のいくつかの既存薬剤を比較してプロモーションを行った。MR は医師に対して「将来的に既存薬剤に置き換わる製品であり,メーカーとしては便秘症治療薬の第一選択薬になると考えている」,「海外での適応は日本よりも広い」といった趣旨の発言をしたり,どのような患者が適応になるかという質問に「便秘を訴える患者に広く使用可能である」と回答したりと,承認外の効能効果をほのめかす発言が多くみられた。他のモニター医療機関でも同様の説明がなされていたとの報告があり,広範囲での活動が疑われた。
ポイント
承認されていない効能効果を積極的に紹介している。
自費診療で査定がないことを理由に承認外の投与方法を紹介した事例
問題のあった情報提供活動・資材
MR による口頭説明
内容
B 社のホルモン剤の説明の際に,担当MR が「本ホルモン剤は薬価収載されておらず,自費診療で用いるので保険の査定がない。そのため,現場では添付文書の用法用量通りに使用されることはほとんどない」と説明した。具体的な使用方法について尋ねると,自費診療だから可能だということを強調したうえで,医師の裁量で投与のタイミングを前後させた投与方法を紹介した。この未承認の投与方法について,エビデンスを示すことはなかった。
ポイント
査定がないことを理由に,承認されていない用法用量を紹介している。
恣意的なグラフの加工により,適応範囲を誇大に見せた事例
問題のあった情報提供活動・資材
MR によるプレゼンテーション(口頭説明・パンフレット)
内容
本剤の効能効果は潰瘍性大腸炎であるが,使用上の注意で本剤が腸内で到達する範囲や使用すべき部位が指定されており,適応範囲は限定的であった。
しかし,総合製品情報概要には,サブグループ解析の結果として,適応範囲の腸炎の結果に加え,全大腸炎型の結果も含めた棒グラフが掲載されていた。インタビューフォームにも同様のグラフの記載があるものの,総合製品情報概要ではグラフ内のデータの掲載順序が入れ替えられており,最初に全大腸炎型の結果を示すことで,本剤が全大腸炎型に効果があると誘導されているように感じられた。このグラフについてC 社MR からは,「特定部位の病変が改善することで全大腸炎型にも効果を示した」という説明がなされた。
原著論文では,病変を限定した試験であり,全大腸炎型についてはn 数が少なく統計解析も行っていないため,効果に言及できないとされているが,そのような記載は製品情報概要には見られなかった。
ポイント
グラフ中のデータの掲載順を変えることで,承認されていない効能効果をほのめかしている。
自社製品に特有な副作用を効能効果としてPRした事例
問題のあった情報提供活動・資材
MR による口頭説明
内容
A 社のMR が,モニター医療機関を訪問し,自社製品である高リン血症治療剤に特有の副作用(栄養成分**が過剰になること等)を注意喚起するパンフレットを提供した。
MR はこのパンフレットをもとに,本来の効能効果であるリンの抑制効果を説明した上で,「この薬を使用すれば血液透析患者の**症状に対し栄養成分**の補充が可能になる」,「臨床検査値の**の上昇が期待できる」といった副作用を逆手にとったプロモーションを行った。実際に,モニター医療機関では透析患者に対して,経口製剤や点滴による特定成分**の補充療法を実施しているが,MR からはそれらの補充療法が不要になるという説明がなされており,処方への影響が懸念されるものだった。
ポイント
副作用を効能効果として積極的に推奨している(承認範囲を超える効能効果を示している)。
他の医薬品との差別化のために,臨床データのない効能効果を紹介した事例
問題のあった情報提供活動・資材
MR によるプレゼンテーション(口頭説明・スライド)
内容
モニター医療機関における新薬採用のための院内説明会で,B 社のMR がスライドを用いて製品説明を行った。当該医薬品の効能効果は「統合失調症」であるが,説明スライドには「**機能改善」も記載されており,MR が他の医薬品との違いとしてアピールしていた。
この医薬品の作用部位の一つである特定の受容体に対する作用物質は「**機能障害」を改善するとの論文報告もあるが,PMDA の審査報告書には,ヒトにおいてその機能障害の改善が見込まれる旨の記載はなかった。また,同受容体への親和性に関しても,他の抗精神病薬も一定の拮抗作用を有し,当該医薬品に特有の作用機序ではないことが確認されている。このような背景についてはスライドやMR による説明では一切触れられなかったため,「**機能改善」が効能効果の一つであると誤解を与えかねないプロモーショ
ンであった。また,製品情報概要には「**機能改善」に関する記載はなく,製品説明会においてのみ,このような説明があった。
ポイント
承認されていない効能効果を,非臨床データを用いて積極的に紹介している(承認範囲を超える効能効果を示している)。
未審査の臨床試験結果を用いて,血圧降下作用を効能効果のように示した事例
問題のあった情報提供活動・資材
製品情報概要の臨床試験結果紹介
内容
C 社のホームページで紹介されている,血糖コントロールの有効性と安全性に関する臨床試験の結果において,参考情報として「血圧降下作用」を示すグラフが複数掲載されていた。参考情報と表示している文字のサイズは小さく,これらのグラフは,主要評価項目・副次評価項目に続く形で,同様のレイアウトやサイズで掲載されており,血圧について「有意な低下が認められた」との記載もあった。そのため,これらのグラフや表記を読んだ印象としては,心血管イベントの抑制が期待できることをPR しているように思われた。しかし,PMDA の審査報告書を確認したところ,主要評価項目・副次評価項目で血圧降下に関する記載はなく,「血圧降下作用」を示すデータはPMDA の審査対象になっていないことがわかった。
ポイント
承認審査の対象となっているデータと対象外のデータを並列し,承認外の作用について効能効果だと誤認する恐れのあるプロモーションを行っている(承認範囲を超える効能効果を示している)。
指定外の初期投与量を推奨,及び,データの比較において強調を行った事例
問題のあった情報提供活動・資材
医療関係者向け情報提供サイトでの企業配信動画
内容
医療関係者向け情報提供サイトにおいて,D 社が作成した医師向けの処方に関する説明動画を医師・薬剤師向けに配信していた。
当該医薬品の投与方法について,動画中では,1 日量100mg から開始し,患者の状態を確認しながら増量することを推奨していたが,添付文書の用法用量には,100mgを1日3 回投与(1 日量300mg)し,本剤に対する反応等に応じ,効果の得られた後には1日量100〜300mg の範囲で投与するとあった。つまり,初期投与量1 日量300mg が本来の投与方法であるが,動画では,初期投与量が1 日量100mg の用法用量を推奨していた。
また,他の医薬品の単独群に比べて,当該医薬品を含む複数の医薬品の併用群は有効性を示す数値が有意に高く,効果不十分による投与中止例の割合が有意に少ないことを示したグラフが動画中に表示されていたが,それぞれの棒グラフの色が変わったり点滅したりといった強調がなされていた。
ポイント
承認されていない用法用量を推奨している。また,対象薬との比較を強調するプロモーションを行っている(「医療用医薬品製品情報概要等に関する作成要領」(日本製薬工業協会)では,「対照薬(プラセボを含む)との比較や投与前後の違いを示す図表においては,矢印等を用いて差を強調しないこと。また,文字の大きさや色使いなどで差を強調しないこと」としている)。